「
その背景 〜過去から〜
」
自室のベッドの上で報告書を眺める。
小難しい文章を一々真剣に理解していこうと言う気はおきない。いや、この紙切れを読むという行為に興味は無い。そんな中で一層、自らの精神を逆撫でする単語。
-作戦失敗-
この騎士団が失敗したわけでは無い。肝心の本隊が結果として失敗したのだ。
「あぁっ、ふざけやがってぇ」
俺たちに簡単な任務を押しつけて、自分たちは失敗したという体たらく。
こんなことで連合軍のやつらを根絶やしにできると思っているのか!?
オリヒカの中に言い様の無い怒りと殺意が沸いて、胸を苦しめた。この不満は解消しなければ、気が狂いそうになる。
普段ならセリアが「慰めてあげる」と言ってくれているのだが、今はそんな気分ではない。
オリヒカは急いで格納庫の愛機に向かって走って行った。
「おいおい、またかいオリヒカ?」
通信ディスプレイからガーランドが話しかけてくる。
「進歩の無い男ね。」
リアが鼻で笑いながら悪態をつく。
「そっちこそ、俺がやるって解ってて準備してくれてたみたいだが・・・行って良いんだよな?」
「問題ありません、例外無く、戦死なさっても死体を回収する予算もありません。同時に修理、治療も断らせて頂きます。」
ミアが冷たく、慣れた口調で言う。
「うるさい、解ってる。修理用のパーツぐらい、とってきてやる!」
荒く叫ぶとオリヒカは夕陽に向かって機体を唸らせた。
情報部によると連合軍は大規模な帝都進行作戦の為の誘導作戦と“飛行するライガー”の試験を兼ねて、各地で小規模な奇襲を行なっているとのこと。
オリヒカはロードゲイルのレバーを倒し、じょじょに高度を上げていき、あるかないか解らない戦闘光を捜す。
「一時・・・無し。五時・・・無し。八時・・・反応確認・・・。」
確認を呟くと、俺は運が良いと言わんばかりにそこへ向かっていった。
戦闘区域に入って、その光景に息を飲んだ。
味方の残骸が広がっている。
「どういうやつがこんな・・・なんだ?」
破片を見ようとした眼前に光線が走る。
同時にレーダーに反応
「こいつの仕業か?機体照合・・・該当機種無し?新型かよ!?」
急いで向き合おうと旋回するが間に合わず、再びビームがかすめる。
オリヒカの機体はロックオン不可能だが、こうして狙えているということは、人間、それも結構なエースパイロットが搭乗していると考えられる。
相手の性能が一切解らないので迂闊に手は出せない。姿を確認しようとも素早すぎて見えない。ただ、鳥のような姿ということは解る。
そんな時、アラームが鳴り響き、特別回線での通信回線が開く。
「オリヒカか?そんなとこで何してる?」
「ジョーカーか?お前には関係無いだろうが!」
レーダーを確認すれば見慣れたロードゲイルの反応が三機。
「げへっ、どうぜまた八づ当たりに来だんだ、いづまでも餓鬼なやづだな。」
両腕にデモンズヘッドの頭部をつけたロードゲイルのパイロットが鼻で笑いながら言う。
「よしなよゼージェン、餓鬼に何を言っても無駄なんだからさ。」
バスターイーグルの翼とバスターキャノンを装備したロードゲイルのパイロットが悪意充分に言う。
「その癪に障る声・・・ゼージェンとロドリーか!?」
「なんだいその言い方?任務帰りに疲れてんのに、せっかく助けにきてやってんだよぉ!?」
「そうだ、土下座ぐらいじでもらわねぇどな!」
「誰が木偶の坊とヒステリック女の助けなんか!ジョーカーも、お前ら全員帰ってろ!」
「三人ともいい加減にしろ!まずはあの新型の撃破だろうが!」
見かねたジョーカーは声を荒げて命令した。
さすがに四対一で騎士団が負けるわけがなく、新型の死角をつき撃墜を成功することができた。
ジョーカーの指揮能力もさることながら、残る三人の実力もエースレベルなだけあり、一瞬の狂いも無く、コックピットだけを破壊することができた。。
「ふぅ・・・やったな皆、これは凄い収穫だぞ。」
新型の捕獲はどんな撃墜数より名誉なことである。
それにデータ解析さえすれば今後の戦いもぐっと楽になる。
だが、そう言ったジョーカー以外の三人は帰る素振りを見せなかった。
「ジョーカーあんたは先に帰ってな・・・」
「ロドリー?」
「げへへっ、こいつはヂャンスだ。」
「二人共、何を言ってるんだ?もう敵は・・・」
ジョーカーは気付いた、二人の視線が共通の敵を捉えていることに。
「オリヒカァ、あんた良い奴だったけど、こんなところで一人で来て敵の新型ゾイドに撃墜されるなんて不運なやつだねぇ・・・」
バスターキャノンが白い機体に向けられる。
「オラだぢの手で二階級特進ざぜでやるどぉ・・・」
「おいっ、馬鹿なことはよせ!仲間同士で打ち合って、何がやりたいんだ!?」
ジョーカーは二人を制止にかかる。
「どいてろよジョーカー、その新型はお前一人の手柄にすれば良いだろう。」
オリヒカは冷ややかな表情を浮かべる。
「そうしないと、お前は仲間二人が戦死しただけになるぜ?」
そう言い切る前にバスターキャノンの轟音が響く。
「餓鬼がぁ!ガイロスにいた時から、ずっと気に食わなかったんだ!」
両腕のパルスビームを打ち続けながら移動する。
「下手な鉄砲も数打てば当たるって?そんな訳は無いぜ。」
ブースターを使わずに、最低限の動きで距離を保つ。
「ぎゃはっ、背中がガラ空きだど!」
バチンッ、という牙が空を切る音が聞こえる、続けて、バスターキャノンの轟音。
「間抜けな連合軍には当たっても、俺にはそんな攻撃は通じないぜ。」
ゼージェンとロドリーと言えば騎士団内ではトップの連携攻撃の使い手である。だが今、その正確すぎるパターンが仇となり、回避したオリヒカにバスターキャノンは両方ともパルスビームに焼かれることになった。
「それで戦力を削いだつもりかい!?あんたの死に方、決まったね!」
両腕のエクスシザーズを展開し、一気に加速する。だが、オリヒカの機体は彼女の方には興味を持たず、右方のゼージェンの機体を見る。
パルスビームを使った、そんな僅かな一瞬をついてデモンズヘッドが右腕を食いちぎり、激しい衝撃が走る。
「くうぅぅぅぅ・・・ゼージェン、俺のロードゲイルは美味しかっただろう!?デザートも付けてやるぜ!」
オリヒカのエクスシザーズが強引にゼージェン機の左肩から右脚付け根に食い込むとそのまま旋回する。
あまりに強引な力の流れにより、オリヒカ機の左肩は不自然な音を上げながらねじ切れ、火花を上げて空に舞う。
そしてその投げられた金属塊は何の抵抗も見せず、こちらを狙ってベクトルを向けていたロドリーの機体に抱かれ、後は慣性の法則に従い、落下のみを行っていた。
二人の断末魔がコックピットに響く。
それを聞いてオリヒカは体の異変に気付く。
手足が震える、涙が止め処なくなく溢れる。
「お前たちが・・・お前たちが・・・もうガイロスの時代は終わったんだ・・・」
黒く、悪臭の漂う煙が、まるで龍が舞う様に流れる。
「時代は流れるんだ!なんで過去に引きづられてるんだ!!俺は、俺はあぁぁぁぁ!」
彼の絶叫は、誰に向けるのでなく、ただ、静まりかけた太陽だけが聞いていた。
この日、彼のストレスが発散させられることは無かった。
そういえば、あの時もこんな夕日を眺めていた。
戻る
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送