赤き栄光 〜決断〜


 今日で何度目だろう・・・
 かつての同士を撃ち・・・
 かつての部下を撃ち・・・
 これはゼネバスの国旗を掲げてのことだろうか・・・
 これは父の信じたゼネバスなのか・・・
 だが・・・私は・・・
 ・・・
 私はどうすればいい・・・
 この老いぼれた瞳は真実を見つめているのか・・・
 この手は義の為の血で染まっているのだろうか・・・
 この足は栄光の為に歩んでいるのか・・・
 ・・・
 私は・・・
 私は、それでも・・・
 ・・・
そこで思わず笑みを浮かべてしまう
 これは、私らしくない。ならば、私らしくするだけだろう、と。
 もう、迷いは無いのだから・・・
 もう、後には引けないのだから・・・
 これが、私の信じた正義なのだから・・・

「おい、爺さん大丈夫か?」
「んっ?なんだオリヒカか・・・?」
「なんだじゃないだろう・・・ったく、出撃前に呆けてるなんて・・・そろそろ引退を考える年齢じゃないのか?」
 ディスプレイに映る青年は苦笑しながらそんなことを言う。
「ふっ、このシアンド、まだまだ若いもんには負けはせん。それにいつも言ってるだろう・・・」
「ゼネバスの栄光についてか・・・もう飽きたぜ・・・」
 またこの青年は・・・とお互い笑いあってしまう。
 ここは疾風の騎士団秘密基地、現在は出撃前である。しかし、二人の台詞からはかなりの余裕を感じられる。
「くぉらぁっ、そこ!私語はいい加減に・・・」
 隊長らしき男がそう叫ぶのは無理も無い状況だが、オリヒカはまるで自分には関係無いことのように準備をととのえ終えると
「オリヒカ、発進する!」
「苦労が多いな、隊長殿。シアンド、発進するぞ!」
 このジジィ・・・お前が隊長になってくれてりゃあ・・・と、隊長は何度も思っていたらしい。

「目標地点に接近、各機散開して強襲準備!敵はたかが数機の飛行ゾイドじゃが、油断大敵である!」
 シアンドはそう命令すると指定位置につく。

 数分の戦闘で共和国ゾイドは全滅、こちらの被害はゼロで済んでいる。流石にこのあたりは(一応)エース部隊故の活躍である。
 いつもならそう思っているはずの時間、オリヒカは自分の五感を疑っていた。
 いや、今の時間全てを疑っていた。
「・・・と・・・・光・・・・国を・・・」

 基地内でも隊長はオペレーターを疑っていた。
「ですから、出撃した8機の友軍の内、五機が・・・!!」

 隊長から現状報告をなんとか聞けたオリヒカは自分に対峙しているゾイドに向かっていった。もちろん、そのゾイドからの敵意を感じたからである。だが、彼は理解していた、それが無駄であることを、信じたくは無いことを。そして彼は叫んでいた。
「爺さん!!」

「≪ゼネバスの栄光を忘れるな、これは正義の象徴だ≫」
シアンドがいつも自分に言っていたことがずっと鳴り響く。
 さっきも爺さんはそう言おうとしていた、なのに。
「それがあんたの正義か!答えろ!爺さん!!あの言葉は嘘だったのか!!」
 そのシアンドが今、敵をしてそびえ立っていた。しかも、四機を共に行こうと説得して。オリヒカはその行為を信じたくなかった。
「嘘では無い、今のゼネバスは誇りを失った。だから決めた!私が取り戻すと!!」
 咆哮と共に白と黒のロードゲイルは激突した。
「貴公らはこの先に向かえ!既にガイロスのホエールキングが待ってくれておる!」
「しかし。シアンド様は!?」
「心配せずともこのシアンド、三機程度に負けはせぬ!」
 そう言うと黒の魔獣は白い魔獣を弾き飛ばす。
「まずは一匹!」

 黒の魔獣は先ほどの四機を追撃に向かった背後のロードゲイルの羽をパルスレーザーで打ち抜き、怯ませた後、マグネイズスピアで貫いた。
「戦闘中に背を向けるなどと、愚の骨頂だと教えたはずだ!さて・・・次は・・・」
 続いて、パルスレーザーを撃ってくるロードゲイルに真正面から突っ込んで行く。シアンドはそのパイロットが自分を打ち抜く覚悟が無いと見抜いていたから回避する必要も無く、間合いを詰め、コックピットから左脇にかけてをエクスシザーズハンドで捕獲した。


「シアンド!」
 オリヒカのロードゲイルがスキを見つけたと言わんばかりに接近した。
 今、撃たなければ絶対に自分が勝てる相手では無い。そういう恐怖にかられていた。
普段の自分なら、こんな勝ち目の無い戦い、撤退しているはずだ。だが、自分の親代わりの人物が寝返るえるなんて信じられなかった。
 それを見たシアンドは特に慌てる様子も無く、左手のロードゲイルをオリヒカに投げつけた。
「それで目隠しの・・・!」
 オリヒカはそれがただの目隠しの為に投げられたのだと、思っていた。しかし、シアンドはその機体をマグネイズスピアで貫いてきた。完全に不意を突かれ、オリヒカのロードゲイルは右肘を吹き飛ばされてしまった。
「くっ・・・なんであんたはさっきまでの仲間を二人続けて殺せるんだ!?」
「言ったはずだ、私はゼネバスの誇りを取り戻すと!故に、その成就の為に私はどんな茨の道も歩んでみせる!すべてはゼネバスの正義のためだ!!」
 シアンドの、間違い無く殺気のこもったスピアをオリヒカは同じくスピアを使って防ぎ続ける。
「今のゼネバスの何がいけないんだ!?」
「やり方も!ブロックスも!!無人機も!!!かつてのゼネバスはこんなものを望んではいなかった!!」
「くっ・・・無人機は気に食わない・・・けど、ブロックスは向こうも一緒だろう!!」
 スピア同士がショートする。
「今の私にとっての敵は!かつての栄光を失ったネオゼネバスのみ!!」
 この男にとっての正義はゼネバスのみということである。オリヒカは彼にこれほどの忠誠心があるとは思っていなかった。心意気で、完全に圧倒されてしまっているのである。

 スピア同士の競り合いの途中、オリヒカはスピアを突き抜くもシアンドは自機をオリヒカ機に垂直に90°傾け、そこからカウンターを繰り出し。オリヒカのスピアを両方破壊し、とうとう、オリヒカを左右両方の武器を失った。
「これが最後忠告、貴公も共に来い!さすれば、解るはずだ!何を信ずれば良いかが!」
「まだ、こっちには牙がある!」
 そんなオリヒカの最後の抵抗に動じることも無く、シアンドはマグネイズスピアを突き抜いた。

 だが、その瞬間に今までの戦闘のダメージが響き、オリヒカの機体はマグネッサーシステムに異常をきたし、空中制御が不可能となり、下降を始めた。そのおかげでスピアは頭部を顎から貫いただけとなってしまった。
 それでも、オリヒカの運命は変わらなかった。
「せめて、楽に死ねたかオリヒカ・・・だが、共に来れば助かった命を・・・さらばだオリヒカ」

 戦場というのが殺るか、殺られるかの舞台である以上、撃墜は常の出来事である。軍人とはそれを理解し、戦場に赴く者達である。そして、彼はそれを理解してした。同時に「今は自分が殺られる番」であったことも。こうなるのであれば、あの時、ガラにも無く深追いするのでは無かったのだと、後悔の念がつのっていた。
 その白き魔獣は、その姿を成していなかった。頭部は首元からえぐられ、右手首はちぎれ、左の二本の槍は砕け、次にコックピットを貫かれるという瞬間にバランスを崩し、自由落下を始めたのである。その白き魔獣に対峙していた者は、安堵と後悔に駆られながら、それが視界から離れるまで見送っていた。
「結局俺は一撃もあの人にダメージを与えられず・・・引き際を逃してこの様かよ・・・ちきしょぉ・・・」


 オリヒカはこの日、初めて撃墜された。


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