「蒼天の亡霊〜昼夜の悪夢〜


「オリヒカ、急な任務だが機体の実戦テストのついでと思って出撃してくれ。」
 隊長・・・もといガーランド団長のこの命令を聞いたオリヒカは目標地点で待機していた。
「これから・・・どうなるんだろうなぁ・・・」
 誰に言うでもなく、ため息まじりにそう呟く
 先日、シアンドが裏切り、それについていった団員達。
 元々少ない部隊が今や3分の2以下だ。
 しかもシアンドは現場で一番信頼されていた人物だ。彼を失ったのはデカ過ぎる・・・
 そして、よく俺は爺さんと戦って生きて帰って来れたな・・・確か「死刑執行人」とか「死神」とか「雷神の剣」とか「ゼネバスの門番とか」・・・いろいろ通り名があるような人物なのに・・・


「・・・になります。わかりましたか?オリヒカさん?」
 疑問符で終えられた文章に我に帰るオリヒカ。
 今までオペレーターのミアが機体説明をしてくれていたのだ。基地発見時に使えそうなパーツで補い、さらに何か装備してもらった自分の白いロードゲイル。
 自分の機体の説明でありながら、もちろんオリヒカは聞いていなかった。
・・・まずい、聞いてないって言えば帰ってからこいつの姉、確かリア・ヘミリとかいう奴に殴られる・・・
「聞いてなかったんですか?」
「いや、ちゃんと聞いていたさ・・・」
・・・嘘です、ごめんなさい
「では、約3分後に敵数機と遭遇予定です。」

 まっ、なんとかなるさ

これはいつも出撃前に自分に聞かせる言葉である。


 視線の彼方に機影が見える
「むっ・・・あれが敵か・・・」
 目測で判断する限り、少々手負いのナイトワイズ数機とバスターイーグル二機がこちらに接近してきている。おそらく、他部隊の討ち漏らしの後片付けが今回の任務であると判断できる(さっき説明されていたのだが)
「お〜い、オリヒカ、聞こえるか〜?」
「あぁ!?何のようだい、隊長?」
「さっきも言ったが落とすのはバスターイーグルだけだぞ。ついでにコックピットだけを狙えよ」
「・・・・・・了解してますよ。」
 あやうく命令違反をするとこだった・・・いや、もしかしたら聞いて無いのを見抜かれていたのかもしれないな・・・
 そして、ナイトワイズとバスターイーグルに向かって、ブーストーを点火した。


「なんだ?ロードゲイル一機だけだとぉ!?何故誰も気づかなかったぁ!?」
 指揮官らしきバスターイーグルのパイロットは味方にそう叫んでいた。
「そんな・・・レーダーに反応ありません!ロックオンも不可能です!!」
 続いて、ナイトワイズのパイロットも答える。
「えぇい、さっきの戦闘でレーダー類がいかれたのか!?かまわん、一機だけで待ち伏せしていたことを後悔させてやれ!」


「なんだ?なんであいつら何も撃ってこないんだ?」
 オリヒカはそんなことを言っているが、むろん、さっきそういう説明もされていたのである。
 機体の尾部につけられているウェイバーズスピアは周囲の電波を拡散、無力化させる兵器で、これが作動している間、自機は敵機からのロックオン、レーダー感知を妨害する。ただし、こちらからのロックオン、感知も不可能となってしまう。
「・・・オリヒカさん、聞いてなかったんですね・・・」
「いや、聞いてたけど、忘れたんだろう?いつもみたいに」
 団長とオペレーターのこうような会話も、オリヒカは聞いていない。もっとも彼は今戦闘中でそんな余裕が無いこともあるだろうが。


「くっそぉ、デカブツの分際で、なんて避ける機体なんだ、この鳥は!」
「各ナイトワイズに告ぐ!この白いロードゲイルは私の機体のみを狙っている、すみやかに脱出せよ!」
 そう指揮官が叫ぶとナイトワイズはその空域を去っていった。
 それでもオリヒカはバスターイーグルと追いかけっこを続けている。
「お前、私を無視するなよ!」
 オリヒカが気配を感じて横に逃げると、後ろからもう一体のバスターイーグルがクチバシで攻撃してきていた。普段ならこんなに近付かれることはありえないのだが、ウェイバーズスピアのせいでレーダーが動かず、敵の接近もわかっていないからである。
「くそっ、前より反応も速度も、運動性が高すぎる!使いにくい!?」
 これも説明されていたがもう、気にしてはいけない・・・


「隊長殿、この白いロードゲイル、普通じゃありません!」
「えぇい・・・そんなことは解っている・・・」
 共和国側の隊長と呼ばれた中年男性は今までの経験から白いロードゲイルが以上なことを意識していた。帝国ゾイドのくせにモサスレッジのパーツを使っているのも気になっていたがロックオンはおろかレーダーにも映らないのはどう考えても不自然である。
 念のため戦闘データはリアルタイムで先ほど脱出していたナイトワイズ全機に送信して、解析してもらっているが一向に戦闘能力は不明らしい。
 そのような謎の機体について、そして同時にもう一体のバスターイーグルのパイロットのことも考えてみる。女性でありながら若くして入隊し、バスターイーグルを任せられた人物・・・自分に娘がいたらきっと同じぐらいに違いない・・・
 だが・・・この敵と出会った時から、最悪の結末しか脳裏には浮かばない・・・


「いくら戦闘力が良かったって、一体二じゃ戦力的に不釣合いだぜ・・・なっ!?」
 オリヒカの目の前にバスターキャノンがあった。
「いくらロックオンできなくとも、この距離なら避けられまい!」
 捕獲すれば出世できたであろうが、このロードゲイルは絶対に危険だ。本能がそう教えてくれている。
 爆音が鳴り響き、隊長の目の前からロードゲイルは消え去った。
「焦りすぎたか・・・少尉、お前は逃げろ!」
 そして、その言葉を最後に、バスターイーグルの隊長機はコックピットをパルスビームで消された。


「さすが、オリヒカ、ほぼ完璧な状態で持ち帰ってくるとはな、はっはっはっはっはっ」
 ガーランドは格納庫でオリヒカの肩をバシバシ叩きながらそう言った。
 こいつ・・・本当は機体の性能テストだけできれば良かったんだな、と考えられる台詞だ。オリヒカならもって帰れると信頼した上での命令変更だったのかもしれない。
「いや・・・でも今回ばかりはつらかったよ・・・何せ初めての機体でデカい鳥二匹だったんだから・・・」
「な〜に言ってやがる、ナイトワイズは無視させてやったんだから。にしても最後は見事だったぜぇ、バイトファングでキャノンの向きを変えさせ、そのままイオンブースターで相手の横に急移動して相手のコックピットを潰したのは!さっすが俺の見込んだ男だなぁ!」
 ガーランドからすれば褒めているんだろうが、オリヒカにしてみれば冷や汗だらだらで咄嗟にとった行動なのでよく覚えていない。それに、もう一匹のバスターイーグルに逃げられたのは気がかりだ。今までならラッキーなことなのだが、どうにも胸騒ぎを感じてしまう。


「(なんだったんだ・・・あの白いロードゲイル、まさかあの隊長が落とされるなんて・・・)」
 バスターイーグルのパイロットは震えていた。せっかく命からがら脱出したルートで敵機に襲われるなんて考えてもいなかったからだ。
 ここは共和国軍のホエールキングの一室、彼女を含む先ほどの部隊の残りはこの部屋で隊長の戦闘データの説明を行っていた。
「しかし・・・ロックオンも出来ないとすれば、諸君らは亡霊にあったか、夢でもみていたのかね?」
 説明が終わった時、聞いていた老人はそう言った。
 むろん、説明していた側は反論したかったが、そう言われるのも無理は無い話である。
「だが、諸君らももう疲れているだろう?今からこの部隊の所属となったのだから、今日は各自よく休息をとってくれたまえ。命令だ。」


 部屋で一人になった老人は再びデータ画像を再生した。
「(この動き・・・このカラーリング・・・しかし・・・)」
「この蒼い空で、亡霊となって蘇ったのか・・・オリヒカ・・・」
 画面をみながらシアンドはそう呟いていた。


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